NEW ENTRY
[PR]
小話。山しゃちょ。
冬だ。
寒い。
けれど、
好きだ。
冷たい空気。
済んだ空色。
遠い泣き顔。
「あんたを思い出すから、冬は好きですよ」
「あのな。思い出すって…過去の人間か。俺は」
「違いますけど。何て言うんですかね。………んー」
あの頃は。
こんなにも、誰かを求める自分を知らなかった。
世間に対し、ただのガキのあがきがどれほど無意味かも。
知らなくて、わからなくて、そうして誰も教えてくれなくて。
何度も。
「あの頃のあんたは、もう居ないから」
そんな言葉を、本人に言う日がくることも。
空気のように、そうして絶対な何かを。
居ない誰かを求めるより、今と昔を比べることも。
「けど。お前は、まだ…あの頃のままだ」
穏やかで。
幼くて。
そうして、残酷なまま。
「だって。あんたは、俺が好きでしょう」
そんなことを自信をもって言うなんて、馬鹿だ。
けれどその馬鹿の言葉通りだから、どうしたものか。
人が誰かを求めるのは、ぬくもりに餓えているから。
熱が過ぎ去れば、この関係にも終末がくるだろうに。
なのに、まだ。
もう随分と同じ季節を繰り返しても、熱が冷めることはなく。
冷めるどころか、ただ募っていくばかり。
一緒に居たいだなんて、そんな言葉は言い飽きた。
「言ってろよ、馬鹿」
「言いますよ、何度でも」
他の誰かは求めない。求めるのは、ただ一人だけ。
寒い冬。些細でありきたりなその日に、想うのは。
互いの、ぬくもりだけ。
PR
- トラックバックURLはこちら